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不動産を活用した相続税の節税対策
相続税の節税対策として、土地を有効活用してアパートやマンションなどを建てて賃貸経営を行うことがもっとも効果があることは、これまで何度も解説してきました。実際に節税対策を目的として土地活用を行っているケースがほとんどで、今や賃貸経営が相続税の節税対策の定番になっています。それだけ「節税対策=賃貸経営」として一般的に認識されているようです。
しかし何も相続税の節税対策は、賃貸経営でなければできないことはありません。
相続税では、現金は額面どおりにしか評価されませんが、不動産は利用の仕方で評価が変わってきます。この特徴を節税対策に活かせば、不動産の評価を下げ、節税効果を生み出すことができます。
そのためには、相続が起こる前に対策を立てて実行しておく必要があります。どの程度の節税が必要なのか、どの不動産を対策用に使うのか、どのぐらい時間をかけられるのか、財産の内容や家族の状況によって、最適な方法を選び、早めに計画的な節税対策にとりかかるようにしましょう。最適な対策は1つの方法に限られるわけでなく、いくつかを組み合わせる場合もあります。
いずれにしても、相続財産に多くの不動産が含まれている場合や相続税の課税対象になるぐらいの多額の現金を保有している場合は、節税対策として不動産の活用が重要なポイントになります。
- 自宅を配偶者に贈与する。
- 現金よりも不動産で贈与する。
- 現金で建物を建てる。
- 現金で賃貸不動産を購入する。
- 土地を売却して買い換える。
1. 自宅を配偶者に贈与する
財産を所有するのは夫だけで、妻はいわゆる専業主婦として夫や子どもを支えてきたという家庭が多いようです。このような妻の貢献があればこそ、夫は仕事に専念でき、財産を形成できたわけですから、相続においては、妻の権利は厚く保護され、夫の財産の半分を相続できる権利があります。
さらに贈与においても、婚姻期間20年以上の配偶者に居住用の不動産を贈与する場合、2,000万円までは贈与税が非課税になるという特例が設けられています。通常の贈与と合わせると、配偶者は2,110万円までは贈与税がかからずに、自宅の不動産をもらえるわけです。
通常相続開始前3年以内に被相続人から相続人に贈与された財産は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になりますが、この夫婦間の贈与は、みなし相続財産にはならず、3年以内であっても課税対象になりません。
自宅を配偶者に贈与することは、贈与契約や名義変更の手続きが必要になり、不動産取得税がかかりますが、もっとも手軽で確実な節税対策ではないでしょうか。
「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」の適用要件
夫婦の間の贈与の特例が適用されるためには、次の要件を充たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに行われた贈与であること。
- 配偶者から贈与された財産が、居住用不動産であること。または居住用不動産を取得するための金銭であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
2. 現金よりも不動産で贈与する
現金での贈与は、節税対策としてもっとも多くの人が実行している方法です。贈与税の基礎控除額は年間110万円。毎年基礎控除額の範囲内で少しずつ贈与を続けるようにしておけば、贈与税はかかりません。
しかし現金での贈与は方法を間違えると、実際に相続が起こった際、相続財産と見なされる危険性をはらんでいます。現金をはじめとする金融資産は、額面どおりの時価で評価されますので、贈与額が多いと、万一贈与税が課税されるような事態に陥ると、贈与税も高額になります。現金での贈与は、このようなリスクが伴うものであることを認識しなければなりません。
不動産は、時価よりも低い路線価や固定資産税評価額で評価されるため、実際よりも多くの価値分で贈与できることになります。しかも都市部では、現在の地価は下落しているものの、将来上昇する可能性があります。そうなると、評価の低いときに贈与した土地は、将来大きな財産となる可能性があるのです。賃貸物件なら、贈与後の家賃収入も手にすることができ、節税効果だけでなく利用価値も高くなります。
現金よりも不動産の方が節税になる
相続税法上、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されますので、例えば、子どもに住宅資金を譲渡したい場合、住宅購入資金として現金を生前贈与するよりも、親が住宅を購入した上で現物を贈与する方が節税になります。仮に市場価格が1億円の土地と建物の場合、相続税評価額では5,000万円以下になることもあるからです。
贈与する建物が賃貸物件であったとしても、節税効果は同じです。親が賃貸住宅を所有している場合、そこから入る家賃は親の収入であり、必要経費などを差し引いた残りが親の収入になり、結果的に相続財産に加算されてしまいます。ところが賃貸住宅を子どもに贈与すれば、その後の家賃は子どもの収入になるため相続財産の増加を防ぐことができ、その家賃収入を相続税の納税資金として蓄えることもできます。さらに所得の分散効果が期待でき、例えば、親の方が子どもよりもはるかに所得が多い場合は、親と子どもの両方で所得税を節約することができます。
3. 現金で建物を建てる
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。固定資産税評価額とは、市区町村に備えつけられた固定資産台帳に記載された評価額のことです。固定資産税や都市計画税、不動産取得税や登録免許税などの税額を計算するときのもとになります。
固定資産税評価額は、国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市区町村が決定します。一般的には、土地は公示価格の70%程度、建物は建築費の60%程度とされていますが、実際にはこの割合よりも低く評価される場合もあります。つまり同じ資産であれば、現金よりも建物に換えておく方が相続の際は有利になるのです。
親の現金で親名義で建てると節税!
自宅を2世帯住宅に建て替える際、誰の名義にするのが良いのか? という相談がよく寄せられます。住む状況にもよりますが、相続税の節税という視点からすると、「親の現金」を使って「親の名義」で建てるのが、もっとも節税効果があります。
2世帯住宅の場合、ローンを組むのは子どもの方が借りやすいという理由で、親名義の土地に子ども名義の建物を建てることが多いようです。しかしこれでは、土地は使用貸借になって相続税評価は下がらず、親の節税にはなりません。親の現金を使うことに抵抗があるのかもしれませんが、相続税の節税対策という点では、親の現金を建築費に使うことが節税になるのです。
賃貸住宅を建てれば評価は70%!
自宅ではなく、賃貸住宅を建てれば貸家となり、入居者がいる場合、賃借人に一定の権利があるものと見なされ、建物の評価額から借家権割合30%が差し引かれます。そのため賃貸住宅は、固定資産税評価額の70%の評価になります。
現金に余裕がある場合、賃貸住宅の建築費を借入ではなく、現金で支払うようにすれば、相続税評価額は、貸家の評価減を含めると建築費の半分以下になり、大きな節税効果を得られます。
4. 現金で賃貸不動産を購入する
最近では、相続税の税務調査は「預金調査」といわれるほど、預貯金の調査が厳しくなっています。亡くなった被相続人の口座から預貯金が移された形跡があると、配偶者、子ども、孫など、家族名義の預貯金の内容がすべて調べられてしまうようです。預貯金では、相続財産の評価を減らすことも、隠すこともできません。まとまった額を預貯金でおいておくことは、不安とリスクを生むことにつながります。
1つの答えとして、現金で賃貸不動産を購入することが、相続税の節税に効果があるといえます。現金を不動産に換えることによって、評価が下がるからです。
賃貸不動産を購入すれば評価は半減!
土地の相続税評価額は、路線価が適用され、公示価格(時価)の80%程度。賃貸不動産の場合は、土地は「貸家建付地」になり、相続税評価額は「借地権割合(30%~90%)×借家権割合(30%)」が軽減されます。仮に借地権割合が70%とすると、70%×30%=21%。あわせると、相続税評価額は時価の63.2%になります。
他方、建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額で、建築費の60%程度。賃貸不動産の場合は、借家に該当しますので、「借家権割合」が適用され、30%軽減されます。つまり建物の相続税評価額は、「建築費×60%×(1-30%)」。建築費の42%になります。
土地と建物を合わせますと、相続税評価額は時価の半分程度に下がることになり、現金を賃貸不動産に換えることが節税につながるのです。
5. 土地を売却して買い換える
今や土地をもっているだけで、財産と呼べる時代ではなくなりました。これまでは、広大な土地をいくつも所有していることが資産家の証といえましたが、その土地から収益を得られなければ、固定資産税などの税金や維持管理費がかかるばかりで、資産とは呼べなくなっているのです。
これからは、収益力のある土地が財産であり、収益力のない土地は不良資産になりかねません。土地の一部を売却した代金で建物を建てたり、賃貸住宅を購入したりして、収益を得られる不動産に組み替えることが節税につながります。土地は、量よりも質にこだわって選別しなければならない時代が到来しているという認識が必要なのかもしれません。
不良資産から優良資産への転換
これまでの節税対策の主流になっていたのは、所有地に借入金で賃貸住宅を建てることでした。そのため至るところにアパートやマンションが建てられましたが、駅から遠く不便な物件や建物の老朽化で使い勝手が悪くなった物件などは、入居者に見放され、多くの空室をかかえている状況です。
このような現実に目を向けると、これからの相続税の節税対策としては、不良資産を売却し、優良資産に買い替えて不動産運用を行う「資産の組み替え」を必要になります。例えば、賃料が安く、収益性が低い古いアパートを売却して、駅近くの収益性の高い物件を購入することなどです。
賃貸経営に適さない土地を売却して、好立地の土地を購入することも考えなければなりせん。賃貸にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩15分圏内であることが絶対条件になります。この条件に合わない土地で賃貸経営を始めても、成功を望むのは難しいでしょう。
代々受け継いだ所有地の場合、このような条件に合わないことが少なくありません。賃貸経営を行うのであれば、適地であるか、そうでないかを冷静に判断しなければなりません。もし適さない場合は、その土地を売却し、より相応しい土地を購入して賃貸経営を行うぐらいの決断が必要になるのではないでしょうか。