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賃貸アパート・マンション経営に不可欠な企画力
アパート・マンションなどの賃貸経営の業務を「企画」と「運営」に分けるとすると、その比重は7:3、いえ、8:2だという人もいます。
つまりどのような賃貸住宅を企画できるかが、賃貸経営の成否の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
もちろん建物が完成したあとの運営も重要な業務に違いありませんが、何よりも賃貸経営を成功させるためには、企画力が求められるのです。
アパートやマンションを建てさえすれば、部屋が入居者で埋まり、何もしなくても家賃収入が入ってくると気楽に考えられた時代は、遠い昔に過ぎ去りました。
今や供給が過剰になり、競争が激化している賃貸住宅では、個性もこだわりもない平凡な賃貸住宅を建てても、入居者にそっぽを向かれてしまうのがオチです。
これからの時代、そこに住みたいと入居者の方から思ってもらえる賃貸住宅でなければ、成功することは難しくなるでしょう。
それには、入居者に居住用のスペースを貸しているのではなく、新しい生活スタイルを提案しているのだという発想の転換が必要です。
言い換えると、入居者に選んでもらうのを待つのではなく、こちらから入居者に魅力的な賃貸住宅を提供するのだという気構えで、賃貸経営に取り組む必要があるのです。
それには何よりも、企画力が不可欠なのです。
賃貸アパート・マンション経営を企画する手順
それでは、実際にアパート・マンション経営を企画する手順を解説します。
賃貸経営を思い立ってから建物の設計を始めるまでの間に、企画すべき内容をすべて網羅しました。
多少前後することはありますが、ほぼこの順序で企画を積み重ねていくと良いでしょう。
- 土地診断
- 市場調査
- ターゲット層の選定
- 賃貸タイプの選定
- 付加価値を付ける
- ローン返済計画の策定
- 投資分析
1.土地診断
まず土地診断を行います。その方法は、
- ①土地の現状
- ②建物を建てる際の法的な制限
- ③地盤の強度
を調査します。
①土地の現状の調査
土地を測量して正確な形状を把握し、測量した面積が登記簿上の面積(公簿面積)と一致するかを確認します。
公簿面積は古いデータによるものが多く、一致しないことも少なくありません。その場合、建物は実測の面積に合わせて設計することになります。
測量の際、道路や隣地との高低差も調べます。高低差が大きい場合は、擁壁(斜面の土が崩れ落ちるのを防ぐための壁)をつくる必要があります。
②建物を建てる際の法的な制限の調査
土地に建物を建てる場合、自分の土地だからといって、好き勝手に建てられません。
建築基準法などで都市計画区域内の用途地域に応じて、建ぺい率・容積率・高さ・斜線などが制限されています。
前面道路や隣地との距離などによっても、建築面積や高さに差が生じます。中高層の建物を建てる場合、とくに高さ制限に注意する必要があります。
主な高さ・斜線制限には、
- 絶対高さの制限
- 道路斜線制限
- 隣地斜線制限
- 北側斜線制限
- 日影規制
などがあります。
③地盤の強度の調査
建物を支えるのは基礎、その基礎を支えるのは地盤です。
仮に地盤が軟弱で建物の重さに耐えきれない場合は、建物は沈んでしまいますので、建物を建てる際は、必ず地盤の強度を調査します。
地盤が軟弱と判明した場合は、地盤の補強工事を行います。
補強工事には、
- 表層改良
- 柱状改良
- 小口径鋼管杭
などの工法があります。
2.市場調査
周辺地域の賃貸需要の動向や将来性をチェックして、賃貸経営が成り立つ地域であるかを調査するのはもちろん、近隣住民の属性などを調べて、入居者のターゲットをどの層に絞れば良いか、どのようなタイプの賃貸住宅を建てれば良いか、などの賃貸アパート・マンション経営のプランニングのための情報収集です。
言ってみれば、次に行う「ターゲット層の選定」や「賃貸タイプの選定」の資料づくりともえます。
統計的な資料は、国土交通省の「賃貸住宅市場の実態」や「住宅経済関連データ」、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「市場データ」などが、ホームページで公表されていますので、参考にできます。
将来を予測するには、統計的データを分析する必要がありますが、それ以上にこれから実際に賃貸住宅を建てる地域の市場調査が重要です。
つまりマクロ的よりもミクロ的な分析の方がより重要になるのです。
ピントポイントの地域の市場調査は、自らの足で地域の不動産業者を巡って、情報を収集するほかはありません。
これから賃貸住宅を建てることを話せば、将来顧客になる可能性がありますので、不動産業者も協力を惜しまないでしょう。
- 「来店者の中で多い年代層と世帯構成」
- 「人気がある広さや間取り」
- 「入居者に好まれる設備」
など、気になることを尋ねてみると良いでしょう。
3.ターゲット層の選定
ターゲットにすべき入居者層は、大きくはファミリー層と単身者層に分けられますが、それだけでは不十分だといえます。
まずファミリー層では、次の3つに区分して、ターゲットを見定める必要があります。
- ①夫婦に子ども2人程度の標準的な家族世帯
- ②子どもがいない夫婦世帯
- ③子育てが終わり、夫婦2人になったシニア夫婦世帯
②子どもがいない夫婦は、「DINKs(ディンクス)」と呼ばれる共働きで意識的に子どもをつくらない夫婦。富裕層が多く、部屋の広さや間取り、デザインや設備に高級志向の傾向があります。
因みに、「DINKs 」は「Double Income No Kids(2収入・子供なし)」の頭文字などを並べたもの。
③子育てが終わったシニア夫婦世帯でも同じような高級志向の傾向があり、バリアフリー化が必須といえます。
次に単身者層でも、同様に次の3つに区分して、ターゲットを見定める必要があります。
- ①標準的なサラリーマンの単身者
- ②学生
- ③女性単身者
②学生は、一般的には親からの仕送りで生活するため部屋が狭くても安い賃料を求める傾向があります。
これとは逆に、③女性単身者の30代~40代のキャリアウーマンは、DINKs世帯と同様に富裕層が多く、部屋の広さや間取り、デザインや設備に高級なものを好む傾向があります。
いずれにしても、ターゲットにすべき入居者層を選定すれば、自ずと部屋の広さと間取りが決まってきます。
4.賃貸タイプの選定
賃貸アパート・マンション住宅のタイプを大別すると、
- ①アパートメントタイプ
- ②マンションタイプ
- ③戸建て賃貸住宅
の3つに分けることができます。
①アパートメントタイプは、わが国ではもっとも馴染のあるタイプで、在来工法による木造2階建てが主流でしたが、最近では、ツーバイフォー工法による軽量鉄骨造りが多くなっています。
②マンションタイプは、3階建て以上の都市型賃貸住宅。重量鉄骨や鉄筋コンクリート造りで建てられるのが一般的です。
③戸建て賃貸住宅は、通常の戸建て住宅を賃貸用として貸し出すケース。1戸が上下階で構成されている連棟式のメゾネットタイプや複数の戸建て住宅を連結させたタウンハウスもこの範疇に入りますが、最近はあまり人気がありません。
土地診断と市場調査によって得られた情報をもとに、どのタイプの賃貸住宅を建てるのかを決めなければなりません。
合わせて建築費や工期に大きく影響しますので、建物の構造(木造、軽量鉄骨造り、鉄筋コンクリート造りなど)や建築工法(在来工法、ツーバイフォー工法、プレハブ工法など)を決める必要があります。
5.付加価値を付ける
競争が激化し、賃貸経営が厳しくなった今日、そこに住みたいと入居者の方から思ってもらえる賃貸住宅にするには、他と同じことをやっていても、入居者の目を惹くことはありません。
他の賃貸住宅にはないものを提供して、入居者にアピールする企画が必要なのです。
つまり他の競合する賃貸住宅ではやっていない付加価値を付けることで、注目度を上げ、入居者に選んでもらえるようにするのです。
例えば、次のような付加価値を付けることを検討してみてはいかがでしょう。
- ①オートロックや防犯カメラなど、セキュリティーを強化した女性専用マンション。
- ②インターネットが24時間無料で使える。
- ③ペットとの共生を実現するペット同居型マンション。
- ④屋外に洗濯物を干す必要がない浴室換気乾燥機を完備。
- ⑤全戸駐車場付き。
6.ローン返済計画の策定
建物と設備の概要がまとまれば、建築費の概算を算出できます。
この建築費を手もち資金で賄えれば良いのですが、できない場合は、金融機関などから資金を借り入れなければなりません。
一般の住宅と異なり、賃貸住宅は収益を目的として建てられますので、土地や建物に担保価値があれば、100%ローン、つまり建築資金の全額を借入金で賄うことも可能だといわれています。
借金をすれば、当然返さなければなりませんから、ローンの返済計画をきちんと立てておく必要があります。
ローン返済計画のポイントは2つ。
①固定金利と変動金利、いずれの金利タイプにするか。
②返済期間を何年にするか。
固定金利は、ローン返済期間中の金利が固定されているもので、返済額は一定。低い金利のときに固定金利で借りておけば、その後金利が上昇しても返済額は変わりません。
他方変動金利は、金利情勢によって定期的に適用される金利が変動するものです。通常は固定金利よりも利率が低く設定されていますので、お得感があります。
しかし情勢によっては、予想以上に金利が上がる可能性があり、借りた時点で返済の総額がいくらになるか分からないのも、不安材料です。
返済期間については、借金はなるべく早く返したいと考えるのはもっともなことですが、返済期間を短くすると、その分月づきの返済額が増えることになります。
経営を安定化させるには、無理をせず返済期間に余裕をもたせた方が無難です。一般的には20年~30年の期間を設定することが多いようです。
大切なことは、賃料収入とバランスがとれた返済計画を立てることです。
7.投資分析
企画した賃貸住宅の概要が決まったところで、果たしてこの賃貸住宅で採算がとれるかを見極めるために投資分析を行います。
この投資分析では、確実に収益が見込めるかを正しく判断しなければならず、本格的な投資分析は、専門家に任せるしかありません。
しかし「キャッシュフローツリーを用いた投資分析」であれば、比較的簡単に分析ができますので、ぜひご自身で投資分析にチャレンジしてみることをおすすめします。
キャッシュフローツリーを用いた投資分析では、収益性を見る指標として、
- ローン返済率(K%)
- 投資の収益率(FCR)
- 自己資金の収益性(CCR)
の3つがあり、これらの指標を比較することで、収益性が判定できます。
さらに収益性にとどまらず、投資した資金を回収するにあたっての安全性を判定するために「返済比率(DCR)」と「損益分岐点」を使って、安全性を見極めます。
いくら収益性が高くても、それに応じてリスクも高ければ、安心して賃貸経営ができません。
なお、この投資分析の手法については、「キャッシュフローツリーを用いた投資分析」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
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これから注目すべき入居者層
人口減少と少子高齢化が急速に進む一方で、賃貸住宅の供給戸数は一貫して過剰状態に陥っています。これから賃貸経営を始めようとする人にとっては、決して楽観できる状況ではありません。
つまりただ賃貸住宅を建てれば、入居者がいくらでも集まるという時代は、遠い昔に過ぎ去っていることを改めて認識しなければなりません。
しかし総人口は減っているものの、世帯数は明らかに増加傾向にあります。
高齢化による高齢者世帯の増加に加え、晩婚化や未婚化が進み、離婚率の増加などで単身世帯が増加しているからです。
これから賃貸経営を始めようとするならば、このような市場動向を見極め、ターゲットにすべき入居者層を見定めることがとても重要になります。
これから注目すべき入居者層として狙い目なのは、単身者世帯と夫婦世帯です。
これらの世帯は、富裕層と低所得者層に2極化しつつあり、富裕層に着目しますと、次の層が確実にターゲットになってきます。
- ①30代~40代の働く女性単身者(キャリアウーマン)
- ②共働きで意識的に子どもをつくらない夫婦(DINKs世帯)
- ③子育てが終わり、リタイアしたシニア夫婦(シニア世帯)
これらの人たちは、人数に対し広めの床面積でゆったりとした空間を好むという傾向があります。
立地に対するこだわりが強く、室内デザインや外観、セキュリティーやバリアフリーなどについては、分譲マンション並みの充実度を求める人も少なくありません。
しかしながら需要と供給のバランスでは、現在の賃貸住宅は明らかに供給過剰状態にあり、この先も同じような状態が続くと予想されます。このような状況下では、主導権をもつのは貸す側ではなく、借り手なのです。
ターゲットに定めた入居者層に、数ある賃貸住宅の中からここに住みたいと思ってもらえるかどうかが鍵になります。賃貸経営の成否は、すべてがそこにかかっていると言っても過言ではありません。
つまり広さ・設備・仕様・外観などのニーズを正確に把握し、そのニーズに応えられる賃貸住宅を提供できているかどうかがもっとも重要なのです。
企画力で成功した事例
新宿区住吉町のお客さまケース。老朽化したアパートの建て替えの相談を受けました。
アパートは商業地域の商店街にあり、立地条件から店舗を中心としたテナントビルにすることも可能でしたが、最終的にお客さまの意向で、もとどおりの賃貸住宅にしました。
市場調査を行った結果、新宿区という特性から1DKタイプ以外にも1LDKや2DKなどのタイプでも需要が高いことが判明。商業地域で容積率も大きく、6階・7階建ても可能でした。
将来的な需要を考え、最終的に1室10坪程度の1LDKタイプ、RC造り6階建てマンションにしました。
賃料は月額12万円程度。すでに5年が経過していますが、今でもフル稼働で満室状態です。1LDKタイプが功を奏したようです。
ターゲットにすべき入居者層は、そのエリアの5年後、10年後を見据えて、どのように変化するのかも考える必要があることを認識させられた事例です。