目次
プランニングのプロセス
このように思われる土地オーナーが多いのではないでしょうか?
実際に私が勤務するコンサルティング会社に相談にいらっしゃるお客さまにも、このような人が少なくありません。
確かに、土地活用を始めようとしても、検討すべきことが多く、何から手をつけて良いのやら、悩んでしまうことが多いのも事実のようです。
そこで今回は、私たちコンサルタントが土地活用のコンサルティングの依頼を受けた際、どのようなプロセスで土地活用のプランニングをしていくのかを紹介することにします。
実際に私たちが実践している1つの手法です。すべてのコンサルタントが同じ手法を使っているとは限りませんので、予めご了承ください。
私たちが土地活用のコンサルティングの依頼を受けた場合、次のプロセスを経て土地活用をプランニングします。
- ヒアリング:財産と家族の状況を知る。
- 現状分析:経済面・感情面の課題を見つける。
- 課題解決:課題を解決する方法を導き出す。
- 対策の提案:具体的な節税効果を提案する。
- 賃貸住宅の企画:差別化を図れるコンセプトをつくる。
- 賃貸経営の企画:収支バランスにこだわる。
- プロジェクトの管理:コンサルタントが管理する。
1.ヒアリング
まず依頼者から財産や家族の状況をヒアリングします。不安に思っていることや困っていることなども合わせて聞き出すようにしています。
空いた土地があるので、アパートを建てるという計画は、簡単に立てられますが、建てる目的を明確にしないと最良のプランニングができません。
相続税の節税対策を必要とするのか。建築資金をどのように工面するのか。果てしてアパートが適しているのか。
このようなことは、不動産をはじめとする財産のすべての所有状況が明らかでないと、判断できません。
財産に限らず、配偶者や子ども、孫など、家族の状況も合わせて調査します。
賃貸経営は、20年、30年に及ぶ長期的事業です。依頼者本人だけでなく、相続する家族の協力が必要になるからです。
建築資金を金融機関から借り入れる場合、万一依頼者本人が亡くなると、返済債務を家族が引き継がなければなりません。
2.現状分析
漠然と節税対策が必要だと思っている人でも、自分の所有する財産の相続税評価額や税額をきちんと把握していない人が多いようです。
それにとどまらず、節税対策として何が課題になるのかを整理できていないことも少なくありません。
そうなると、なおさら何をすれば良いのか、どこから手をつければ良いのかが分からなくなります。
このようなことを回避するために、まず財産の全体像を把握し、全財産の相続税評価額を算出します。
次に相続人を確認した上で相続税の予想額を計算し、相続税の申告の要否を判定します。
さらに相続が発生したときに分割できる財産になっているか、相続税の納税資金を確保できるか、なども合わせて把握します。
ここまで分析が進むと、だんだんと取り組むべき課題が見えてきます。
- 相続税の節税対策だけで良いのか。
- 納税対策も必要か。
- 物納を検討する必要があるのか。
- 物納や遺産分割のために土地を分筆する必要があるのか。
などがあげられるでしょう。
直接土地活用にかかわりませんが、感情面での家族間のトラブルを回避するための1つの配慮として、依頼者に遺言をおすすめするケースもあります。
3.課題解決
取り組むべき課題が整理できれば、次はどのように解決するかという解決策を検討します。
何から手をつければ良いのか、どのような方法が考えられるのかなど、解決策を依頼者に提案していきます。
よくあるケースを紹介しますと、「財産の大部分が不動産で、中には活用できない土地も含まれ、納税額を支払うだけの現金がない」というケースです。
このままでは、不動産に高額な相続税がかかり、納税資金を調達できないおそれがあり、節税対策がどうしても必要になります。
節税対策には、いろいろな方法がありますが、私たちは、第一に依頼者本人や家族の意向に沿った対策をいくつか用意して提案するようにしています。
例えば、所有する土地を残したいという意向であれば、賃貸住宅を建てることを提案します。賃貸経営は、節税対策の定番であり、うまく経営できれば、長期的に安定した収入が見込まれます。
他方、土地を残さなくても良いという意向であれば、所有する土地を売却して別の場所に賃貸不動産を購入することを1つの選択肢として提案します。
上記のケースとは異なり、納税額に足りる預貯金がある場合でも、現金のままでは節税ができません。賃貸不動産を購入するか、賃貸住宅の建築資金に使うか、などの節税対策を提案します。
4.対策の提案
土地活用を始める人の多くは、漠然とした知識として賃貸住宅を建てることが節税対策になることを知っています。
しかしいざ賃貸住宅を建てる段階で、どのぐらいの投資をすれば、どれぐらい節税効果があるのかをきちんと計算した上で決断した人は少ないのではないでしょうか?
このようになってしまう要因は、賃貸住宅を建てる際、具体的な節税効果を説明してくれるアドバイザーがいないからです。
ハウスメーカーから提案を受けて賃貸住宅を建てる場合でも、営業担当者が相続税の節税効果を正確に理解していないことが多いのです。
相続税の節税対策を目的に土地活用を始める場合、必要以上の規模で賃貸経営を行う必要はまったくありません。
土地活用を決断する前に、どの程度の節税効果が得られるのかを確認しておくことがとても重要です。
例えば、相続財産として、時価1億円、面積500m²の土地と預貯金5,000万円があるとします。
①何もしないまま相続が発生した場合
土地の相続税評価額は、公示地価(時価)の約8割で8,000万円。
預貯金はそのままの額5,000万円。合わせて相続税評価額は1億3,000万円になります。
②預貯金5,000万円を資金にして土地に建築費5,000万円の賃貸住宅を建てた場合
土地は「貸家建付地」になり、相続税評価額は「借地権割合(30%~90%)×借家権割合(30%)」が軽減されます。
仮に借地権割合が70%とすると、70%×30%=21%。相続税評価額は21%軽減されます。
さらに貸付事業用宅地として小規模住宅用地の特例が適用され、所定の要件を充たせば、土地の相続税評価額が200m²まで50%軽減されます。
500m²の土地では、200m²が50%軽減され、残る300m²は軽減がありませんが、全体で20%軽減されることになります。
合わせると21%+20%=41%が軽減され、土地の相続税評価額は、4,720万円。
賃貸住宅を建てると、新築した建物が新たに相続財産に加わることになります。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額で、通常は建築費の60%程度。貸家建付地の建物は借家に該当しますので、「借家権割合」が適用され、30%軽減されます。
つまり建物の相続税評価額は、「建築費×60%×(1-30%)」。建築費の42%に軽減されることになります。建築費5,000万円の賃貸住宅の場合、5,000万円×42%=2,100万円。
すべてを合計すると、土地4,720万円、建物2,100万円、預貯金0円で、相続税評価額は6,820万円になり、①よりも6,180万円も評価額が低くなります。
③預貯金と借入金3,000万円を資金にして建築費8,000万円の賃貸住宅を建てた場合
土地の相続税評価額は②と同じ4,720万円。
建築費8,000万円の賃貸住宅の場合、8,000万円×42%=3,360万円。
合計すると、土地4,720万円、建物3,360万円、預貯金0円で、相続税評価額は8,080万円。
これより借入金の3,000万円がマイナス財産として控除されますので、相続税評価額は5,080万円。①より7,920万円、②よりも1,740万円も評価額が低くなります。
5.賃貸住宅の企画
今や、賃貸住宅を建てさえすれば、入居者が集まり、何もしなくても家賃収入が入ってくるような時代ではありません。
賃貸住宅の供給が過剰になり、競争が激化している今日、個性のない平凡な賃貸住宅では、入居者は振り向いてもくれません。
他と差別化を図れる個性のある賃貸住宅でなければ、過当競争の中では生き残れません。
そのためには入居者から支持が得られるコンセプトが不可欠です。このコンセプトづくりが、賃貸経営の命運を分けると言っても過言ではありません。
賃貸住宅のコンセプトづくりにおいて、重要なポイントは次のとおりです。
- 狭すぎず、広すぎず、競合しない間取りを選ぶ。
- 入居者が借りやすいリーズナブルな家賃を設置する。
- もっとも需要が見込める時期(2月~4月)の前に建物を完成させる。
- グレードアップした設備・仕様で差別化を図る。
6.賃貸アパート・マンション経営の企画
節税対策を目的にして賃貸経営を始めた場合、相続が発生したときに想定どおりの節税効果を得られたとしても、日常の経営自体がうまく稼働していないようでは、本末転倒です。
かつては節税対策を重視するあまり、賃貸経営の収支バランスに無頓着になり、「借金をして建てれば、節税対策になる」という話を鵜呑みして失敗したケースが少なくありません。
ハウスメーカーから節税対策としてすすめられて賃貸住宅を建てたものの、ローンの返済額が減らないうちに家賃が下落し、空室の増加により資金をもち出さないと、ローン返済ができなくなって困っている賃貸オーナーも少なくありません。
このような現実を教訓にすると、たとえ節税効果があったとしても、賃貸経営として収支バランスがとれない可能性があれば、土地活用を始めてはいけません。
土地活用を始めて良い絶対条件は、経営が成り立つこと、つまり収支バランスが確実にとれることです。
そのためには、むやみに投資額を増やすことは避けなければなりません。
建築資金については、いかにして建物や設備のグレードを落とさずに安く抑えられるかという工夫が必要なのです。
7.土地活用プロジェクトの管理
建物の設計が完了し、建築工事が始まれば、私たちコンサルタントは、工事の発注者である賃貸オーナーを補助することが主な任務になります。
工事期間中でも、いろいろと判断や決断を求められることが少なくありません。
内装をどのような色合いや素材で仕上げるか、どのような設備を備え付けるかなど、契約した工事代金の範囲内で色や仕様を選択しなければならないこともあります。
この選択によって完成後のイメージが大きく変わることがありますので、設計事務所や建設業者がそれぞれの立場で提案した内容をコンサルタントが調整しながら賃貸オーナーの決断を手助けすることになります。
賃貸住宅づくりは、いわば1つのプロジェクトといえます。
このプロジェクトには、設計事務所をはじめ建設業者やその下請けなど、多くの関係者がかかわります。
コンサルタントは、関係者のそれぞれの仕事がスムーズに成し遂げられるように調整して、事業を成功に導く重要な役割を担います。
単に設計図どおりに建物を建てるだけではなく、オーナーや関係者の思い入れを注ぎ込むことで、より価値のある建物に仕上げていく任務を負っているのです。