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賃貸アパート・マンション住宅の規模を決める5つの指標
市場調査を行ってターゲットにする入居者層を見定め、間取りや専有面積、建物の構造や設備の概要が決まると、最後に賃貸住宅のどのぐらいの大きさにするか、つまり規模を決める必要があります。
その際、もっとも重要なことは、どのような目的で土地活用を行うのかという視点です。実は、土地活用の目的が建物の規模に密接に関連してくるのです。
まず節税対策として土地活用を行う場合は、節税の目標額から賃貸住宅の規模を決めることができます。
次に収益性を重視するならば、投資分析より導き出される利益を得るために必要とされる建物の規模が決まります。さらに市場調査から賃貸経営として適正な規模を見定めることもできます。
最後に活用する土地の面積が限られている場合、その土地の担保力や建築基準法などの制限によって、自ずと建物の規模が決まってきます。
以上を整理すると、賃貸住宅の規模を決める指標は、次の5つです。
土地活用だからといって、不要な高額資金を投入する必要性はまったくないのです。
- 節税目標から規模を決める。
- 投資分析より規模を決める。
- 市場より規模を決める。
- 土地の担保力より規模を決める。
- 建築基準法より規模を決める。
1.節税目標から規模を決める
土地活用を行う目的で多いのが節税対策、中でも相続税対策がもっとも多いのではないでしょうか。
仮に時価1億円、面積500m²の土地があるとします。この土地に相続が発生した場合を想定して、解説を進めることにします。
土地の相続税評価額は、いわゆる路線価が適用され、通常は公示地価(時価)の8割。つまりこの土地の相続税評価額は8,000万円になります。
これを半減、つまり相続税評価額を4,000万円程度に削減することを目標とする場合、どのぐらいの大きさの賃貸住宅を建てれば、目標が達成できるのかという視点で、賃貸住宅の規模を考えます。
貸家建付地の相続税評価額
まず土地に賃貸住宅を建てると、その土地は「貸家建付地」になり、相続税評価額が軽減されます。
貸家建付地の相続税評価額の軽減割合は、「借地権割合(30%~90%)×借家権割合(30%)」。
土地にはそれぞれ「借地権割合」が決められており、
A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%
のうちいずれかが指定されています。
そして建物にも「借家権割合」があります。これは一律30%で計算されます。
貸家建付地の相続税評価額は、借地権割合と借家権割合をかけ合わせた割合が軽減されますので、仮に借地権割合がC:70%の土地であったとすると、70%×30%=21%。相続税評価額は21%軽減されることになります。
次に賃貸住宅を建てると、貸付事業用宅地として小規模住宅用地の特例が適用されます。
事業を引き継ぐなどの所定の要件を充たせば、土地の相続税評価額が200m²まで50%軽減されます。500m²の土地では、200m²が50%軽減され、残る300m²は軽減がありませんが、全体で20%軽減されることになります。
貸家建付地分と合わせると、21%+20%=41%が軽減され、土地の相続税評価額は、4,720万円になります。
貸家建付地に建てられた建物の相続税評価額
土地に賃貸住宅を建てると、新築した建物が新たに相続財産に加わることになります。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額で、通常は建築費の60%程度です。そして貸家建付地の建物は借家に該当しますので、「借家権割合」が適用され、30%軽減されます。
つまり建物の相続税評価額は、「建築費×60%×(1-30%)」。建築費の42%に軽減されることになります。
仮に建築費8,000万円で賃貸住宅を建てるとすると、8,000万円×42%=3,360万円になります。
借入金は相続税評価額から控除される
上記の土地と建物の相続税評価額は、土地4,720万円+建物3,360万円=8,080万円、もとの土地の相続税評価額8,000万円を上回ることになります。
しかし相続税では、借入金などのマイナス財産は評価額より控除されますので、例えば、建築費8,000万円を全額ローンで借り入れた場合の相続税評価額は、8,080万円-8,000万円=80万円。
ほとんど相続税を支払う必要がなくなります。
つまり相続税の節税を念頭に賃貸住宅の規模を考える場合、建築費のうち、いくら借入金をするかという点に帰結します。
上記の例で、4,080万円以上を借り入れれば、目標とする相続税評価額の半減が達成できます。ただし控除されるローン残高は、返済とともに減っていきます。
その分を見越した借入額を設定しなければ、実際に相続が発生したときに目標が達成できなくなるのは、言うまでもありません。
2.投資分析より規模を決める
土地活用を始めるにあたって、それが確実に利益をもたらすものであるかを確認するために投資分析が欠かせないことは、すでに解説したとおりです。
その際、比較的簡単にできる投資分析として、「キャッシュフローツリーを用いた投資分析」の手法を紹介しましたが、このキャッシュフローツリーを使って、賃貸住宅の規模を逆算することができます。
キャッシュフローツリーは、次のような手順で「総潜在収入」から諸々の経費を差し引き、最終的に「税引後のキャッシュフロー(税引後の収入)」を求めます。
総潜在収入(GPI)(空室を考えない満室状態の年間の収入)
-)空室損失(空室によって得られなかった家賃)
-)賃料未回収損(滞納による未収入金)
-)賃料差額(GPIと成約家賃の差)
+)雑収入(家賃以外の収入)
=)実効総収入(EGI)(実際に得られる収入)
-)運営費(OPEX)(管理費や公租公課などのランニングコスト)
=)営業純利益(NOI)(物件が稼ぎ出す利益)
-)年間返済額(ADS)(銀行ローンの返済額)
=)税引前キャッシュフロー(BTCF)(税引前の収入)
-)税金(所得税・法人税)
=)税引後キャッシュフロー(ATCF)(税引後の収入)
これを逆算して、総潜在収入から賃貸住宅の規模を決めようとするものです。
つまり税引前のキャッシュフロー(税引前の収入)を先に設定して、ローンの年間返済額、運営費、賃料差額、賃料未回収損、空室損失などを計算し、最終的に設定した税引前の収入を確保するためには、総潜在収入をいくらに設定すれば良いのかを求めるわけです。
当然のことながら建物の規模によって、すべての項目が変動しますので、何通りかのシミュレーションを行いながら求めるほかはありません。
例えば、税引前の収入で300万円を確保することにして、ローンの年間返済額や運営費などの経費を計算して求められた総潜在収入が1,200万円になったとします。
仮に2DKタイプのアパートを想定し、家賃相場が月額10万円の場合、1,200万円(総潜在収入)÷12月÷10万円(家賃相場)=10戸。
つまり2DKが10戸の規模が必要になるのです。
3.市場より規模を決める
これから賃貸経営を始めようとする場合、周辺に賃貸住宅が1軒もない地域と、すでに何軒か建っている地域とでは、どちらが望ましいと思いますか?
賃貸住宅が1軒もない地域の方が、競争相手がいないので、適していると思うかもしれませんが、正解は、何軒か建っている地域の方です。
なぜなら、すでに賃貸住宅があるということは、その地域に賃貸住宅に対する確実な需要があることを意味するからです。
さらに市場調査を行えば、需要が多い入居者層や間取り、家賃の相場、標準的な設備などを把握することができ、実際に賃貸住宅で暮らす入居者がどのようなところに不満を感じているのかも調査できます。
このような市場調査を行っているうちに、有用な市場データが蓄積され、だんだんと理想的な賃貸住宅のタイプや間取り、建物の規模などが見えてくることがあり、1つのプランを構想することができます。
実際の市場調査に基づくデータから導き出されたプランは、市場のニーズに適合し、失敗することが少ないともいわれています。
もう1つ、市場調査に関連してアドバイスをしておきます。
地域には、それぞれいわゆる「街力」というものがあります。賃貸住宅の規模というより、階数を決める際は、街に合ったタイプにすることをおすすめします。
例えば、地方都市では、5階建てのRC造りのマンションよりも、2階建ての軽量鉄骨造りのアパートの方が、街力に合っていることがあります。
4.土地の担保力より規模を決める
所有する土地がどの程度の担保力があるか、つまりどれだけ融資を引き出せるかで、賃貸住宅の規模を割り出すのも1つの方法です。
しかし現実的には、土地と新築した建物の両方に担保権を設定して融資を受けるのが一般的です。
建物の建築費を賄うための融資では、土地と建物の両方を担保にすれば、特別な事情がない限り融資を満額受けることができるでしょう。
ただし、工業地域や準工業地域にある土地でしかも土地の形状が悪い場合、土地の担保力が著しく下がる場合がありますので、注意が必要です。
金融機関が融資額を査定する際、よく用いられるが「積算評価法」です。積算評価法とは、土地と建物でそれぞれの評価を出して合計する方法。
ここでは、参考までに積算評価法を解説することにします。
土地の担保力
まず土地については、「路線価×面積(m²)」が基準になります。
路線価とは、相続税評価額のことで、不特定多数が通行する道路に面する土地について、1m²あたりの価格で公表されています。通常は公示地価の8割程度。つまり土地の担保力は、時価の8割程度になります。
次にこの基準価格は、その土地の個別な事情により調整が行われます。
①用途地域による調整
都市計画法により定められた用途地域により次のような調整が行われるのが一般的です。
用途地域 | 価格調整 |
---|---|
商業地域 | +10% |
第1種・第2種住居地域、準住居地域ほか | ±0 |
第1種・第2種中高層住居専用地域 | -10% |
第1種・第2種低層住居専用地域 | -20% |
工業地域、準工業地域 | -30% |
※工業専用地域では、アパート・マンションなどの賃貸住宅は建築不可。
②土地の形状による調整
土地の形状により担保力に差が出ます。
基本的に接道面が広い土地の評価が高く、もっとも高いのは、正方形で接道面が2面以上ある土地です。引き込み道路により公道に接している土地や長方形で短い辺の面でしか接道していない土地は、評価がぐっと下がります。
居住用は南向きが好まれるため、北側接道よりも南側接道の評価が高くなります。
個々の土地の形状により異なりますが、一般的に+30%から-50%程度まで調整が行われるようです。
建物の担保力
次に建物の担保力は、「再調達価格×延床面積×残存年数÷法定耐用年数」です。
再調達価格とは、建物を建てるときの単価(m²)を示し、次の数値を用います。ただし、金融機関によって多少単価が異なる場合があります。
この再調達価格に延床面積をかけ、経過年数を加味したものが建物の積算価格になります。経過年数は、法定耐用年数を上限として残存年数分の価格を割り出します。
建物の構造 | 単価(m²) | 法定耐用年数 |
---|---|---|
木造・軽量鉄骨 | 15万円 | 22年 |
重量鉄骨 | 18万円 | 34年 |
鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート | 20万円 | 47年 |
5.建築基準法より規模を決める
建物を建てる際、建築基準法などにより都市計画区域内の用途地域に応じて、建ぺい率・容積率・高さ・斜線などに制限が設けられています。
前面道路や隣地との距離などによっても、建築面積や高さに差が生じます。詳しくは、「用途地域による建築制限」で解説していますので、ご参照ください。
この建築基準法などによる建ぺい率・容積率・高さ・斜線などの制限の限度いっぱいを賃貸住宅の規模にする手法です。
首都圏や関西圏などの地価が高いエリアでは、規模を大きくすればするほど、収益性が上がりますので、この手法がよく用いられます。
一般的にハウスメーカーなどに賃貸住宅の建築を依頼する場合も、この限度いっぱいに建てることをすすめられます。
しかしすべての場合にこの手法が適しているとは言いきれません。
例えば、車がないと生活できない郊外のエリアでは、住環境の整備が求められますので、建ぺい率や容積率にとらわれず、駐車場を整備したり、植栽や花壇などを設けて、建物以外のレイアウトにも気を配る必要があります。
それにもう1つ、土地のすべてを使ってしまうよりも、将来の相続や現金が必要になったときに備え、土地の一部を残しておいた方が良い場合もあります。
例えば、2階建て8戸の賃貸住宅が限度いっぱいの場合、4階建ての8戸にして、土地の一部を残しておけば、万一のときは売却することができたり、将来さらに土地活用を進めることもでき、選択の幅が広がります。